家庭でおいしい味噌作りをするための 「容器選び」と「仕込み前の大切なこと」
私たちは、南国鹿児島で100年続く味噌醤油屋 (有)かねよみそしょうゆ です。
桜島を真正面に望む海岸端で、お味噌とお醤油を作り続けて100年。
日本のお味噌の9割以上は米味噌のところ、「麹歩合」高めで、約一ヶ月の熟成で造り上げる “多麹・短期熟成” の「麦味噌」を専門に造っている醸造元です。
そもそも全国には、味噌醤油屋さんが約1200社あります。味噌醤油の作り方は、その土地土地の気候風土と歴史性もあいまって、各地域ごとで随分違います。
ですから、作り方について「どれが正解」ということはありません。どの地域の味噌醤油もそれぞれ味わい深く、永きにわたって親しまれてきた伝統食品です。
ただし各社造り方は違っても、麹(こうじ)という“生き物”の力を借りながら発酵食品を造っていく過程の「味噌作りにおける失敗」という点に置いては、共通点が多いのも事実です。
これらの“共通点”を、私ども職人の体験と知恵を交えながら楽しく知っていただき、各家庭での味噌作りをより“楽しく”、そしてより“おいしい”ものにしていただければ幸いです。
それでは始めましょう。
麦みそ手作り講習会-基礎知識集
家庭でおいしい味噌作りをするための 「容器選び」と「仕込み前の大切なこと」
当社で開催している「麦みそ手作り講習会」で、受講生の皆さんから「容器」についてのご質問をよくいただきます。
「どんな容器を選べばいいですか?」
「ぬか漬けで使っていたホーローの容器は使えますか?」
「ジップロックでも作れますか?」
現在、さまざまなタイプの容器が販売されていますが、色々な選択肢がある中で、そもそも家庭での味噌づくりにはどのような容器が最適なのか?
今回は、家庭でおいしい味噌づくりをするためにとても重要なポイントとなる「容器選び」と「事前の対策」についてお話しします。
まず、第1章と第2章では味噌作りの容器について詳しく解説します。
そして、第3章では、実際の味噌作りにおいて「仕込み前の大切なこと」について解説していきます。ご家庭での味噌作りの参考にしていただけたら幸いです。
第1章:味噌作りの容器で大切な考え
1-1:味噌作りの容器として必要な仕様とは?
おいしい味噌を作るためには、まず仕込む際の「容器」がとても重要となります。容器に求められる仕様のポイントは全部で3つあります。1つずつ詳しく見ていきましょう。
1-1-1:ポイント①「気密性」
味噌作りの容器に求められる1つ目のポイントは「密封性」です。
味噌は、味噌菌という小さな生き物の力を借りて作る性質上、どうしても他の不要な菌も繁殖しやすいリスクがあります。
ですから、不要な菌を繁殖させないためにも、菌やカビにとって必要不可欠な「空気」を、しっかり遮断できる容器を選ぶことが大切です。
1-1-2:ポイント②「保温性」
味噌作りの容器に求められる2つ目のポイントは「保温性」です。
仕込んだ味噌の「味噌菌」を活発に活動させて、美味しい味噌を作るには、味噌菌が働きやすい「適温」があります。
外気が暑かったり、寒かったりした時に容器が外気の熱を伝えやすいと、味噌菌の活動に支障を与えてしまう場合があります。
その一つに「カビ」の問題があります。
一般的に温度が20℃~30℃くらいで、湿度が80%以上になると、カビが生えやすい環境になります。
皆さんよくご存じの「梅雨」の時期が、この条件に当てはまります。
逆に、冬の寒い時期はカビが発生しにくいことからも、カビが発生する20℃~30℃の温度帯には特に注意が必要です。
これらを踏まえると、熱を伝えやすいステンレスやホーロー製の容器は、外気に影響を受けやすく、さらに結露しやすいため、菌やカビが繁殖しやすい環境を作ってしまう心配があります。この点については、以下の項でさらに掘り下げて考察したいと思います。
1-1-3:ポイント③「耐塩性」
味噌作りの容器に求められる3つ目のポイントは「耐塩性」です。
そもそも味噌は「塩」をまぶすことで腐敗を防止し、不要な菌やカビの繁殖を抑えながら熟成させて作ります。
ですから、味噌作りの容器には、塩分により錆びてしまう金属製のものは使用できません。
この点もしっかり押さえておきたいところです。
1-2:現在の「味噌屋さん」での樽容器の素材の主流を確認しておこう
では、実際に味噌屋ではどのような素材の樽容器を使用しているのか?
当社がお付き合いのある、味噌の樽容器製造をしている熊本県の会社の社長さんに聞いてみました。
その社長さん曰く、彼が出入りしている味噌屋さんで、現在の樽容器の主流は「ステンレス」か「FRP(エフアールピー)」とのことでした。
ちなみに、ホーローを使用している味噌屋さんは、かなり少ないそうです。
ここで、FRP(エフアールピー)という普段聞きなれない名称が出てきました。
この素材は、半透明の樹脂を固めて形成されます。そのため、軽くて丈夫で中身が見えるという特徴があります。
特に、容器の中身が見えるという点は、味噌屋にとってとても使い勝手の良いポイントです。蓋を開けなくても熟成の状態を確認できるので、手間が省けます。
また、万が一傷が付いてしまっても、修理をすれば何度でも使えるので、メンテンナンス性にも優れています。
FRPは、このような点から、味噌屋ではステンレス同様、利用の多い素材の一つとなっています。
さて、ここで疑問が残ります。
先にもお伝えした通り、ステンレス容器は、ホーロー容器と同じように熱を伝えやすいという特徴があります。では、なぜ味噌屋ではステンレスが主流なのでしょうか?
この点については、次の通りでした。
味噌屋の場合は、味噌の品温を一定に管理する「温醸室」に入れて熟成させるため、結露による菌やカビの発生の問題は、ほとんど無いとのことでした。
つまり、一定の温度で維持されている温醸室では、熱を伝えやすいデメリットは解消され、ステンレスならではの強度と衛生面に優れた利点だけが活きるとのことでした。
一方で昔ながらの木樽は、近年では衛生面を考慮して使用されることが少なくなったそうです。
その理由は、木樽は水分が残りやすくカビや虫が発生しやすいからです。木樽の衛生面を常に保ちながら使い続けるには、非常に手間がかかってしまうとのことでした。
実際に、現在も木樽を使用している味噌屋さんでも、木樽の中に、まずポリエチレンのシートを敷いてから味噌を詰めている所が多いとのことでした。
さらに、味噌屋では味噌を樽から移すときに一般的にはスコップを使用しますが、この時、木樽はスコップが当たることで木片が発生してしまうとのこと。これでは異物混入につながってしまいます。
もちろん、この点については、樹脂素材のFRP容器も同様とのこと。
ですから、味噌の品温を一定に管理することが出来る前提で考えると、味噌屋が一番使いやすい樽容器の素材は、ステンレスなのだそうです。
ちなみに、近年では機械化が進み、味噌の樽容器自体を機械で固定してひっくり返す「転倒機」を使用する味噌屋も多くなりました。しかし、この転倒機を使用する場合でも、木樽やホーロー容器では割れたり、欠けたりする恐れがあるため、やはり衛生面と強度を重視するとステンレスが安心なのだそうです。
1-3:味噌屋と一般家庭の環境の違いを理解しておこう
前項でもお話ししましたが、通常、味噌屋では味噌の品温を一定に保つ温醸室があります。
温度が常に一定に保たれているということは、外気の影響で結露が発生することはありません。したがって結露によるカビの問題は起こらないのです。
実際に、蔵元ごとで違いはありますが、例えば九州の熟成期間が短い味噌屋さんでは、1トンや2トンなど大容量の樽容器でも、容器自体が移動できるようになっています。
熟成前の仕込み時の味噌の温度は約30℃ほどですが、この味噌を樽容器ごと、同じ約30℃の蔵に移動させて熟成させます。これにより温度差により生じる結露の心配はありません。
つまり、味噌屋と一般家庭の違いは、衛生面はもちろんですが、大きく違うのが「温度管理」が徹底されているという点があるのです。
第2章:容器 素材ごとの特徴
2-1:素材ごとの特徴
味噌作りの容器について理解を深めていただきました。では、いよいよ素材を一点一点見ていきましょう。全部で6種類あります。
2-1-1:素材① プラスチック
食卓では、特に利用シーンの多い素材です。夕食の残り物やちょっとした食料を保存する際に、よく使用されるプラスチックの容器です。お値段もお手頃で電子レンジでも使用できる手軽さから、一般家庭では定番の容器となりました。また、密封性も高く衛生面にも優れています。
2-1-2:素材② ジップロックについて
日常生活で、お料理のパッキングやお菓子入れによく使用されるのがジップロック。材質はポリプロピレン製で、袋形状で密封できるその便利さから、常備しているという方も多いのではないでしょうか。
このジップロック、実は少量の味噌づくりをする場合には使い勝手の良い素材です。
袋に材料を入れて、袋ごともみながら混ぜ合わせて、そのまま熟成させることが出来ます。この手軽さは他の容器にはない利点と言えます。
実際に、味噌作り体験会でジップロックを使って味噌作りをされている味噌屋さんもあります。
気を付ける点としては、ジップロックは袋の形状のため「重し」を使用することができません。袋内に空気が残ってしまうと、カビが発生する原因となりますから、しっかり空気を抜いて熟成させるのがポイントとなります。
あくまで、少量の場合に最適です。
2-1-3:素材③ ホーローについて
ホーローとは、金属の表面にガラス質の釉薬を焼き付けた素材のこと。酒屋さんではホーローの容器をよく使用するそうですが、味噌屋さんが使用するとすぐに駄目になってしまいます。その理由は、味噌に含まれる「塩分」。ホーローの容器は、塩が容器に浸透してしまうため、すぐに弱くなってしまうとのことです。
また、ホーローの容器は熱を通しやすく、外気が冷えていると容器表面に結露が発生してしまいます。こうなるとカビの心配が出てきます。
2-1-4:素材④ ステンレスについて
ステンレス容器は、錆びに強く容器自体が欠ける心配もありません。衛生面でも優れている素材と言えます。ただし、ホーロー同様に熱を伝えやすい性質上、結露によるカビの心配があります。
2-1-5:素材⑤ 木樽について
木樽は、木の繊維の中に常に水分を蓄える性質があります。そのためカビや虫が発生しやすいのが難点です。また、メンテナンスも難しいので、味噌作りの容器としては、かなり難易度の高い素材と言えます。
2-1-6:素材⑥ FRPについて
先ほどの繰り返しになりますが、FRPは、半透明の樹脂を固めて形成されます。そのため、軽くて丈夫で中身が見えるという特徴があります。
特に、容器の中身が見えるという点は、蓋を開けなくても熟成の状態を確認できるので、味噌屋にとって、とても使い勝手の良いポイントとなっています。
また、万が一傷が付いてしまっても、修理をすれば何度でも使えます。メンテンナンス性に優れていて衛生面でも安心なので、味噌屋ではステンレス同様に利用の多い素材の一つとなっています。
2-2:家庭用での味噌作りの場合は、どの材質の容器を選ぶべきか?
以上、ここまで味噌屋で使われている例も含めて容器の材質についてお話ししました。
では、実際に家庭用として入手できるもので、味噌作りに最適な材質の容器はどれなのか。見ていきましょう。
2-2-1:あらためて、味噌屋と一般家庭の環境の違いを再確認する
ここで、あらためて「1-3項」の再確認です。
味噌屋と一般家庭の違いは、衛生面はもちろんですが「温度管理」が徹底されているという点でした。ということは、「温度管理」を徹底することが難しい一般家庭では、熱を伝えやすいステンレスやホーローは、結露によるカビ発生の心配があります。
ホーローに限っては「塩」による錆びの心配もあります
また、木樽はそもそも衛生面が心配ですし、FRPの樽容器は業務用ですので、一般向けの取り扱いがほとんどありません。
ジップロックは衛生面に優れていて、少量の味噌を作る場合は非常に便利です。ただし、仕込む量が3キロ以上になると、袋の形状なので重石が出来ませんから、仕上がりにムラが出てしまう心配があります。
2-2-2:家庭での味噌作りに最適な容器は「プラスチック」
一点一点見ていくと、最終的に家庭での味噌作りに最適な容器は、プラスチック製の容器ということになります。
味気ないと思いますか?
しかし、衛生面と結露によるカビの問題を考えると、プラスチックが一番安心だと言えます。
また、家庭での使用にあたって、軽くて持ち運びしやすいことと、比較的安価で購入しやすい手軽さから考えても、プラスチックの容器は、家庭での味噌作りの容器として最適なのです。
第3章:家庭でのおいしい味噌作り「仕込み前の大切なこと」
3-1:あらためて味噌作りをする前が肝心!
ここまで、容器について詳しくお話してきましたが、そもそも大事なのが「衛生面」です。
要は「容器や自分の手を、しっかりきれいにしてから仕込む」これにつきます。
味噌を仕込む前に、味噌に持ち込んでしまう不要な菌やカビを、極力少なくすることが何よりも重要なのです。
3-3-1:容器の殺菌等は十分すること
手作りの味噌を仕込む前には、しっかりと容器を洗うことが肝心です。内側も外側もよく洗って、菌を極力減らします。
洗った後は水分をしっかり拭き取り、アルコールなどで除菌しましょう。食器用アルコールを吹き付けてキッチンペーパーで拭いても良いでしょう。
こうすることで、カビのリスクを遠ざけて味噌を作ることができます。
3-3-2:一番肝心なのは、手をしっかり洗うことです
カビや産膜酵母の菌は、空気中や人間の皮膚にも常に潜んでいます。その中には良い影響を及ぼすものがいれば、悪い影響を及ぼすものも存在します。
このような状況のもとで、味噌作りの際に良い菌だけを取り入れることは、そもそもが無理な話です。
ですから、自宅での味噌作りをする際に「手袋をして」とか「袋の上から」とか指示されることもあるかと思いますが、これは衛生面から考えると、とても良いやり方だと言えます。
もちろん、素手で作る場合もありますが、いずれにしても味噌作りの際には、まずはしっかり手を洗うことを徹底してほしいと思います。
手のひらや手の甲を洗うのはもちろんですが、特に爪の間に雑菌が溜まりやすいので、しっかりと洗う必要があります。爪ブラシを使用するのもおすすめですね。
そもそも爪は短い方が汚れが溜まりにくいので、爪をしっかり切ってから味噌を仕込むこともおすすめしています。
爪を短く切ることができない場合や手に傷がある場合、また、皮膚が弱くて塩分でかぶれてしまう場合には、手袋をして行うのもいいでしょう。
これさえ出来れば、カビの繁殖を根本から抑えることに繋がり、美味しい味噌を作ることが出来るのです。
ちなみに、私たちの「手作り麦みそ講習会」では、味噌を混ぜる時、あえて「手袋をしてください」とは、お伝えしていません。
それはなぜか?蒸した大豆と麦を混ぜ合わせる際に伝わる「肌の温もり」と「手触り感」。これらは衛生面とは別に、「自分の手で感じながら、手作りする体験」は、何物にも代えがたいと考えているからなのです。
「手洗い」と「容器の衛生面」をしっかりするという前提で、皆さん素手で一生懸命作っているようです。
まとめ
いかがでしたでしょうか。
今回は、家庭でおいしい味噌作りをするための 「容器選び」と「事前の対策」についてお話ししました。
味噌作りの容器と言っても色々な種類がありますが、中でも衛生面と扱いやすさから「プラスチック製の容器」がおすすめです。
そして、何よりも味噌を仕込む前が肝心!
自分の手をしっかりと洗い、調理器具や容器もしっかり除菌することで、味噌に持ち込む不必要な菌を大幅に減らしましょう。
衛生的な環境のもとで適切な容器を使用することで、美味しい味噌作りの可能性がグンと上がりますので、ぜひこれからの味噌作りの参考にされてみてください。
公式インスタでも「味噌作りについての質問」にお答えしています
(有)かねよみそしょうゆが主催する「麦味噌手作り研究会」の公式インスタでも、味噌作りについてよく頂く質問にお答えしています。参考になる投稿があったら、ぜひ保存しておいしい味噌作りにお役立てください!
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