味噌作りでのカビを防ぐ観点からの容器選び

こんにちは。
私たちは、南国鹿児島で110年続く味噌醤油屋 (有)かねよみそしょうゆ です。

桜島を真正面に望む海岸端で、お味噌とお醤油を作り続けて110年。

日本のお味噌の9割以上は米味噌のところ、「麹歩合」高めで、約一ヶ月の熟成で造り上げる “多麹・短期熟成” の「麦味噌」を専門に造っている醸造元です。

そもそも全国には、味噌醤油屋さんが約1200社あります。味噌醤油の作り方は、その土地土地の気候風土と歴史性もあいまって、各地域ごとで随分違います。

ですから、作り方について「どれが正解」ということはありません。どの地域の味噌醤油もそれぞれ味わい深く、永きにわたって親しまれてきた伝統食品です。

ただし各社造り方は違っても、麹(こうじ)という“生き物”の力を借りながら発酵食品を造っていく過程の「味噌作りにおける失敗」という点に置いては、共通点が多いのも事実です。

これらの“共通点”を踏まえ、私どもが主催している「手作り麦みそ講習会」の受講生から受けた質問をおりまぜながら、職人の体験と知恵を交えて楽しく知っていただき、各家庭での味噌作りをより“楽しく” そしてより“おいしい”ものにしていただければ幸いです。

それでは始めましょう。

 麦みそ手作り講習会-基礎知識集 

【味噌作りでのカビを防ぐ観点からの容器選び】

本記事では、これまでの当社での実例をもとに、味噌作りの際の「カビを防ぐ観点からの容器選び」についてまとめました。第1章、第2章では「カビ」について。第3章では「容器選び」についてお話しします。味噌作りの際に、この記事が解決の糸口になれば幸いです。

この記事の目次

第1章:これっていったい何?カビ?

1-1 :工場長が考えた「2つの可能性」

「お味噌を床下で熟成させていたら、味噌の表面にカビらしきものが現れた」
「麦みそ手作り講習会」を受講いただいた方から、このようなお電話がかかってくることがあります。

味噌の上に現れた”よくわからないもの”を「カビではないか?」と心配されるのは、ごもっともだと思います。

しかし、当社の工場長は、このようなお電話をいただいた時、一般的に発生しそうな「カビ」よりも、むしろ別のものの可能性を考えます。

工場長は、この道22年の大ベテラン!二代目社長と先代工場長のもとで学び、現在は、かねよみそしょうゆの蔵元である(資)横山味噌醤油醸造店の工場長として、三代目社長と一緒に会社を盛り立てています。

さて、工場長はどのように考えるのか、詳しく見ていきましょう!

工場長は、まず考えました。

そもそも、カビは「塩」に弱いのです。
お客様が「味噌の表面にカビらしきものが付いている」と言われる場合、塩が効いてる味噌の上に、塩に弱いカビが直接発生する可能性はかなり低いと考えます。

この理由から、味噌の表面の「白いもの」は、まずはカビではなく「産膜酵母(さんまくこうぼ)」ではないだろうか。このように工場長は考えたのです。

さて、ここで突然「産膜酵母(さんまくこうぼ)」という単語が出てきました。普段聞きなれない「産膜酵母」とは何なのか? 

そして、私たちが当たり前に「カビ」と言っているものは何なのでしょうか?頭の整理をするためにも、次にこの「産膜酵母」と「カビ」つについて具体的に解説していきましょう。

1-1-1:産膜酵母

まずは、「産膜酵母(さんまくこうぼ)」です。産膜酵母とは、私たちの生活環境に普段からいる酵母菌の一種です。

味噌の表面にも、よく付くことがあります。人体には影響ありませんが、独特の臭いがあります。

そもそも「酵母」とは、味噌造りには欠かせないものです。当社でも、味噌造りをする際には、あらかじめ“味噌造りに最適な酵母”を選んで使っていますが、産膜酵母はその仲間です。

菌の形状は丸い粒状。小さな芽を出して1→2、2→4という風に細胞分裂を繰り返して増えます。

酵母のほとんどは、塩分があると活動できません。ただし、この「産膜酵母」は耐塩性があり味噌の表面にまれに発生することがあります。

もちろん人体には影響ありませんが、味噌の風味の劣化や色の変化を起こしてしまうため、なるべくなら避けたいものです。

もし、味噌の表面に「白いカビのようなもの」があったら、まずは「産膜酵母」を疑いましょう。産膜酵母の見た目の特徴としては、①フワっとしておらず、②ペロっと味噌の表面についている、そんな感じです。

1-1-2:カビ

もうひとつは、「カビ」の可能性です。「カビ」は「産膜酵母」とは明らかに違います。

産膜酵母が耐塩性があるのに対し、カビは塩に強くありません。塩のあるところでは育たないと考えられています。この点が産膜酵母と大きく異なる点です。

カビの見た目は、モワモワと花が咲いているようなお花畑のようです。

枝が伸び、雑草が生えていくようなイメージです。カビは、植物のように根と花(胞子)があり、この胞子が空気中に飛散しながらどんどん増えていきます。

1-2:現場で起きた実際の話

1-2-1:味噌の上に黒い物がある!

2021年夏も終わるころでした。
お味噌作りをされている方から、工場長へ一本の電話が鳴りました。その方の話によると、味噌の上に「黒い物」と「白い物」が現れてきたとのことでした。

送られてきた画像を確認してみると、確かに白いものと一緒に黒いものが繁殖していました。

さて、ここで工場長はあらためて「2つの可能性」を考えました。一つ目の可能性は「白カビの上にできた黒カビ」。もう一つの可能性は、「産膜酵母の上にできた黒カビ」です。

1-2-2:工場長が推測した理由

そもそもカビは、塩分に弱い特徴があります。
ですから通常は白カビと黒カビが勢いよく拡がることは考えられません。

この観点から1つ目の可能性「白カビの上にできた黒カビ」の可能性は低いと考えました。

では、2つ目の可能性はどうでしょうか。

先ほどからお話ししている通り「産膜酵母」には「耐塩性」があります。

まず、塩に強い「産膜酵母」が味噌の表面に発生する。そして、産膜酵母の上に「黒カビ」が発生する。これならつじつまが合います。

よって今回の場合は「産膜酵母の上に繁殖力の強い黒カビが生えたのでないか」と考えました。工場長の長年の経験からそう推測したのでした。

1-3:工場長の頭の中の再現とまとめ

「産膜酵母」と「カビ」の話しと立て続けに出てきて、少々わかりづらい部分もあったかもしれません。

ひとまずここで復習もかねて、工場長の頭の中で考えた順番を再度まとめてみましたので、一つずつ確認していきましょう。

1-3-1:「白いもの」について

まず、味噌の表面に「白い物」があったら、「産膜酵母」ではないかと疑います。カビはそもそも塩に強くありませんので、塩をまぶした味噌の上には育ちません。

また、カビの胞子は花が咲いたように広がって見えますが、画像を確認しても、その花が咲くようなフワッとした感じがありませんでした。さらに、臭いもするとのことでした。

【白カビではなく、産膜酵母を疑った理由】
①フワっとしていない。
②ペロっと味噌の表面についている感じ
③鼻を近づけると少し臭いがあるとのこと

1-3-2:「黒いもの」について

まず、塩が効いた味噌の上で白カビが繁殖するとは考えにくいです。

ただし、黒いものについては、過去の経験からも塩に直接触れない産膜酵母の上に黒カビが発生したものと推測しました。

1-3-3:味噌にカビが生えた例は1件のみ

実は、当社の味噌にカビが発生したという事例は過去に1件しかありません。

その1件は、業務用でお使いのお客様からでした。現場に行って確認してみると、コンロのそばに味噌を置きっぱなしにされておられました。

もうすでに、味噌の上には「たまり水」と思われる黒い液体が溜まっていて、塩分も薄くなり味噌の着色も進んでいました。

非常に特殊なケースですが、このような環境ではカビが生えてしまうのも仕方ありません。

カビの生えにくい味噌作りタル

第2章:なぜカビは発生するのか?

2-1:カビ発生までの「必要条件」とは?

まず、カビによる問題を最小限に抑えるためには、「カビが発生する条件」を知っておくことが大切です。

何もないところからカビは発生しません。カビが生えるには一定の条件があり、カビにとって最適な環境が整うとカビが発生します。

そもそもカビは「生き物」です。
ですから、人が呼吸をするようにカビも「空気」を必要とします。

簡単に言うと、カビは植物のようなものであり、茎と根もあります。ということは、カビが生きていく上で必要な「必要条件」を知ることで、カビへの対処法が見えてきます。

カビが生きていくために必要な条件は以下の4つです。

① 栄養
② 空気
③ 温度
④ 水

言われてみれば当たり前のことですが、この4つの条件がカビが生きていくために必要不可欠なものです。

では、これらの条件を1つずつ「カビの発生を防ぐための対処法」も交えて、さらに詳しく見ていきましょう!

2-1-1:カビが発生するために必要な条件 その①【栄養】

味噌は、煮たり蒸したりした穀物を原料に使用しますので、本来は「カビ」が発生するための栄養分が豊富にあります。

しかし、塩を混ぜることにより腐敗やカビの発生を抑えながら発酵熟成させることができるのです。

ただし「結露」や「たまり水」などの水分によって「塩分が薄まった場合」は、今度はカビにとって絶好の繁殖環境となってしまいます。

味噌作りを始めるにあたって知っておくべきこと。その1つ目は、そもそも味噌の原料は「カビ」にとって必要な栄養源であること。

そして2つ目は、塩を使うことで「腐敗」や「カビ」の発生を抑えていること。この2つを知っておくことがとても重要です。

2-1-2:カビが発生するために必要な条件 その②【空気】

カビも他の生き物と同様で「空気」を必要とします。手作り味噌の講習会で、最後にラップを味噌の上に敷くときに隙間なく空気が入らないようにラップを敷いてください」とお伝えしています。

これは、余計な雑菌が入り込まないようにするためと、カビの繁殖に必要な酸素(空気)を遮断するためでもあります。

この工程で空気が入ってしまうと、カビの生えやすい条件をひとつ作ってしまうことになるのです。

2-1-3:カビが発生するために必要な条件 その③【温度】

「空気も抜きました!」「気をつけていました!」しかし、それでもカビが発生してしまったというケースは、意外と多いものです。

実は、カビが発生する条件で一番コントロールが難しいポイント。それが「温度」です。

一般的に度が20℃~30℃くらい。そして、湿度が80%になるとカビが生えやすい環境になると言われています。

そして、一年の中でも、この条件に当てはまる時期が、皆さんよくご存じの「梅雨」の時期です。

逆に、冬の寒い時期はカビが発生しにくいことからも、カビが発生するために「温度」が重要な要素であることが理解できます。

ご家庭で味噌を仕込む際は、くれぐれも温度が高い場所や直射日光が当たる場所は避けましょう。

2-1-4:カビが発生するために必要な条件 その④【水】

あとひとつ、気をつけるべきポイントがあります。それが「水」です。カビも生き物です。ですから、他の生き物と一緒で「水」はカビの生存にとって必要不可欠です。

ここでは、先に「栄養」の項で述べたことと重なりますが、味噌の熟成が進むにつれて出てくる「たまり水」のことについて、あらためてお話ししたいと思います。

重しの周りにたまってくる「色のついた液体」といえば、味噌を作ったことのある人にはイメージがつくかもしれません。

この液体は「麹」が味噌の原料を分解して糖化することにより生成される「水分」と「糖分」がにじみ出てきたものです。

うまみが凝縮された味噌と醤油の間のような液体ですので、もし、味噌の表面に溜まってきた場合は、捨てずに味噌に混ぜ込んでください。

ただし、表面を覆うように大量に出てくる場合は、塩分が薄まりカビの発生の要因となってしまいますから、スプーンなどですくって捨ててください。

2-2:【体験談】創業より600年以上続く「種麹(たねこうじ)屋さん」の話

当社で長く取引をさせていただいている「種麹(たねこうじ)屋さん」があります。

種麹屋さんとは、お味噌や焼酎を造る時の種菌(たねきん)を売っているお店のことです。こちらの若い営業担当の方のお話しをしたいと思います。

仕事熱心な彼は、商売上「種麹」を扱っているので「自分でも味噌を作ってみよう」と思い立ち、自宅で味噌作りを始めたのでした。

もちろん麹菌を商品として扱っている彼です。雑菌の知識や清潔さの大切さは十分熟知していたのですから、細心の注意を払って作り始めました。

ところが・・・・

2-2-1:大変!手作り味噌にカビが生えた

彼曰く「はじめは味噌の表面に白っぽいモノが出てきました」。「そしてその後に黒っぽい黒カビがすごい勢いで出てきたんです!」。
続けて彼、「特に黒っぽいカビは繁殖力が強かった!」と言っていました。

みなさんもうおわかりですね。
おそらくこの白っぽいものとは“産膜酵母”だったのでしょう。

2-2-2:家庭ではカビが発生しやすい

その後も、彼は自宅で何度も味噌を作ってみたそうです。でも、やはりカビが発生しました。

工場では見かけることのない黒カビ。でも、自宅で味噌を作ると、決まって黒カビが発生するのです。そこで至った彼なりの結論。

「家庭ではどんなに気をつけていてもカビは発生しやすい」
「中でも一番繁殖力の強いカビは黒カビである」ということ。

その理由としては、そもそも家庭では屋根裏や床下を含めてどんな菌がいるかわかりません。

また、このような場所は換気も不十分になりがちです。もちろん、皆さんの家が汚いと言いているわけではありません。

そもそも、家庭での味噌作りは、蔵や工場で作る味噌作りとは、大きく違う点があるのです。

2-2-3:味噌を作る上で気をつけること

これまでの「カビ」や「産膜酵母」の話を踏まえた上で、味噌を作る上で気を付けることは、一体何なのでしょうか?

簡単に一言で言ってしまえば「きれいにしてから作りましょう」ということになります。

当たり前すぎて、拍子抜けしましたか?
ただし、覚えておいてほしいことがあるのです。それは、家庭で味噌を作る時の「限界」です。家庭で作る際、無菌状態で作ることは不可能です。

空気中にはいろいろな菌が存在し、時間をかけて味噌作りにいい影響を与えたり、悪い影響を及ぼしたりします。

だからこそ、悪い菌が時間をかけて悪い影響を出してくるのを、遅らせる必要があるのです。そのためにも「作り始め」、「仕込み始め」の状態をきれいに保つようにしてください。

【気をつけること】
・味噌作りの前に手を洗う
・容器をしっかり洗い、水分を拭く
・アルコール除菌をする
上記のポイントをおさらいしながら、味噌作りを始めてください。

2-3:それでも、味噌醤油作りに必要不可欠な「カビ」

さて、これまでのお話の流れからすると「カビは汚いもの」というイメージを与えてしまったかもしれません。

そこでこの章の最後に、二代目から聞いた「カビの一種である麹菌の力を借りて味噌作りをしてきた」という話をして、最後を締めくくりたいと思います。

2-3-1:二代目から聞いた話

味噌醤油作りに必要不可欠なカビ。味噌醤油は、カビの一種である“麹菌”の力を借りて作るものです。我々の会社の二代目、横山則秋から以前聞いたエピソードをご紹介します。

それは1972年、住み慣れた旧工場から新工場に移るときのこと。旧工場から車で30分のところにできた真新しい工場。床も壁もピカピカです。

そんな新工場で一番初めにやったこと。

2代目則秋社長の号令のもとで、旧工場から持ってきていた「出来上がったお味噌」と「出来上がった醤油」を思い切って床にばらまくようにと指示をしたことでした。

「バチャー、バチャー。」

真新しい工場が醤油の黒い色にみるみる染まっていきます。

きれいに磨き上げた工場が、一瞬汚くなってしまうのは心苦しくなってしまいそうですが、2代目は違いました。

なぜなら、
真新しい工場に今までの味噌と醤油をばらまいて、100年受け継がれている当社独自の味噌菌と醤油菌を、工場の中に充満させたかったから。

もちろん、しばらくしてから、まいた味噌と醤油は水で洗い流してきれいにしています。

ほかにも似たような話を聞いたことがあります。

ある醸造メーカーの工場長がアメリカに新しく工場を造ったとき、一番初めにある事をしたそうです。それが、日本の醸造蔵で働いていた従業員の上着を洗濯せずに運んで、しばらく新工場の中に置いていたとのこと。

これも、醸造の工程で必要な「菌」を、あらかじめ馴染ませるという意味で行っていたのかもしれません。真偽のほどはわかりませんが、うなずける話ですね。

カビの生えにくい味噌作りタル

第3章:カビを防ぐ観点からの容器選び

ここまでは「カビが発生する条件」と、「味噌作りに必要不可欠なカビの働き」についてご紹介しました。

それでは、いよいよ本記事の本題である「カビを防ぐ観点からの容器選び」についてお話ししていきます。

「長期保存をするのにどのような容器が向いているの?」
「たくさん種類があるけど結局どの容器がおすすめなのか知りたい!」

このような疑問も解消すべく、実際に味噌作りをするにあたっての大前提を踏まえたうえで、カビを防ぐ観点からどのような保存容器が最適なのか見ていきましょう。

3-1:カビを防ぐには?

カビを事前に防ぐためには、まずカビの事を知る必要があります。カビがどのように発生するのか?というところから考えてみると、とるべき防止策が具体的に見えてきます。

3-1-1:そもそもカビは日常的に身の回りにいる

繰り返しお伝えしていることですが、あなたが住んでいる家や人が出入りする場所など、至る所にカビは潜んでいます。

それは、例えどんなに家をキレイに掃除をしていたとしても、あなたが過ごす家の屋根裏や床下なども含めて、カビ菌は必ず存在します。

もちろん、あなたがキレイに掃除をしている家のことを汚いと言っているわけではありません。そうではなく、本来、味噌は色々な菌がいる中で、味噌作りに必要な菌だけを活かして作るものです。

ですから、そもそも味噌菌が住みついていない家庭では、カビが発生しやすいということなのです。

3-1-2:だから、味噌作りは「カビ」がいる前提でやる

自宅で味噌を手作りする際に使用する容器や器具にも、目に見えない菌がたくさん付着しています。それだけでなく、私たちの手にも良い菌も悪い菌も含めて「常在菌」という菌が潜んでいます。

まずは、私たちも身の回りで至る所に菌がいることを前提にして、味噌作りを行うことが大切なのです。

3-1-3:カビを「0」にするのは無理。極力減らすという考え方でやる

そもそも、日常に潜んでいる菌を全て排除して「0」にすることは、とても難しいです。菌が存在しない無菌の工場や研究室ならまだしも、一般の家庭で菌をなくすことは不可能に近いでしょう。

このような菌を排除できない環境では、そもそも味噌を作る際に大切なのは菌を「0」にするのではなく、「極力減らす」という考え方で取り組まなければなりません。この考えをもとに、実践できることを行えば良いのです。

では、菌を極力減らすために必要なことはなんでしょうか?
それは、味噌作りで使用する容器や自分の手を「きちんと洗ってから仕込む」ということ。とても簡単で、拍子抜けするかもしれません。

しかし、これこそがカビを防止するための基本です。さらに言うと、使用する容器や器具もしっかりとアルコールで除菌することで、より、カビの発生リスクを抑えられるのです。

3-2:カビを防ぐ観点からの容器選び

3-2-1:カビが発生しやすい容器とは

味噌屋では「木樽で味噌を作っている」というイメージをもたれている方も多いのではないでしょうか。

実際に、初めて味噌作りをされる方で「味噌を作るなら木樽で」という方は少なくありません。

しかし、実は樽はカビが発生しやすいという特徴があります。また、天然の素材であるためにメンテナンスも大変なため、現在では木樽で味噌作りをしている味噌屋さんは、随分と少なくなりました。

そもそも、木樽の素材である「木材」は、水をたっぷりと吸収します。そのため、いつも湿っているのが特徴です。

つまり、常にカビが発生しやすい「水分」をいつも溜め込んでいるので、たまにしかお味噌を作らないという一般家庭での場合は、皆さんが思っている以上にリスクが大きいのです。

ですから、当社としては、一般家庭での味噌作りで「木樽」を使用することは、あまりおすすめしていません。(木樽での味噌作りを否定しているわけではありません。)

ただし、古くから味噌屋で木樽が使われてきたのも事実です。これについては、味噌屋では日頃から蔵の中に「味噌菌」が充満していること。

そして、職人による「定期的なメンテナンスが行き届いている」という前提があります。そもそも、味噌屋と一般家庭では「環境面」が大きく違うということだけ、頭に入れておいてほしいのです。

3-2-2:では、どの素材の容器が良いのか?

では味噌を手作りする際に使用する容器は、どういったものがいいのでしょうか。ぬか漬けでよく使用するホーロー容器がいいのか、頑丈なステンレスがいいのか、たくさんある容器の中からひとつを選ぶのは、難しいですよね。

しかし、その前に、長年味噌を作り続ける味噌屋は、「味噌造りにおいて何を最も重視しているのか」というポイントを押さえると、容器選びのヒントが見えてきます。

3-2-3:味噌作りにおいて、味噌屋が最も重視するポイント

それぞれの地域によって変わりますが、味噌造りの職人は、味噌を長期熟成した方がいいのか、短期熟成の方がいいのか、夏を越すまで置いておくのか、冬を越すまで置いておくのか、その上で仕込み量はどれくらいにするのか…などなど、地域性も考慮した上で、その時の「気温」や「熟成させる時間」を重視しています。

つまり、味噌の専門家が気にしているのは容器の素材よりも、外気の温度が、どれくらい仕込み味噌へ影響するのか」ということを、いつも気にかけているのです。

一般家庭で味噌を手作りできる量は、せいぜい1kgから5kg。このぐらいの量であれば、特に外気の影響を受けやすいので、実は容器の素材ありきで選ぶよりも、味噌の仕込みの際の「外気の温度」を念頭に置いて、容器を選ぶことの方が大切になります。

つまりこの観点から言えば、外気の温度が伝わりやすく「結露しいやすい」ステンレスやホーローは難易度が高く、初心者は避けた方が無難だといえます。

また、気温が高い時期では、木樽は衛生管理の点で注意が必要となります。

3-2-4:要は衛生的かどうかで選ぶ

まとめてみたいと思います。
容器選びでは「どの容器が味噌作りにいいか?」と考えがちです。
そうではありません。

「衛生的に味噌作りをするためには、どの容器が一番いいか?」そして、「容器による味噌仕込みへの気温の影響は、どれが一番少ないのか」と考えてもらいたいのです。

それぞれの容器にはそれぞれの良い点と注意点があります。

繰り返しますが、自宅で味噌作りをする際には、菌を極力減らした状態を目指すことが大切ですので、まずは何と言っても衛生面を意識してください。

本来、どの容器でも味噌づくりは出来ますが、手に入れやすさと衛生面が優れている観点でいえば、「プラスチックの容器」をおすすめしています。

味気(あじけ)ないと思われますか?しかし、プラスチックの容器は、乾燥が早く軽くて持ち運びにとても便利なのです。

また衛生面に優れていて、何よりも安価です。ですから、よほど見た目を重視しなければ、プラスチック容器が一番扱いやすいと言えます。

もちろん使用する際は、水でしっかり洗いましょう。そして、アルコールシートなどで除菌をすれば、よりカビを防止することに繋がります。

3-3:あらためて味噌作りをする前が肝心!

3-3-1:容器の殺菌等は十分すること

 手作りの味噌を仕込む前には、しっかりと容器を洗うことが肝心です。内側も外側もよく洗って、菌を極力減らします。

洗った後は水分をしっかり拭き取り、アルコールなどで除菌しましょう。食器用アルコールを吹き付けてキッチンペーパーで拭いても良いでしょう。

こうすることで、カビのリスクを遠ざけて味噌を作ることができます。

3-3-2:一番肝心なのは、手をしっかり洗うことです

カビや産膜酵母の菌は、空気中や人間の皮膚にも常に潜んでいます。その中には良い影響を及ぼすものがいれば、悪い影響を及ぼすものも存在します。

このような状況のもとで、味噌作りの際に良い菌だけを取り入れることは、そもそもが無理な話です。

ですから、自宅での味噌作りをする際に「手袋をして」とか「袋の上から」とか指示されることもあるかと思いますが、これは衛生面から考えると、とても良いやり方だと言えます。

もちろん、素手で作る場合もありますが、いずれにしても味噌作りの際には、まずはしっかり手を洗うことを徹底してほしいと思います。

手のひらや手の甲を洗うのはもちろんですが、特に爪の間に雑菌が溜まりやすいので、しっかりと洗う必要があります。爪ブラシを使用するのもおすすめですね。

そもそも爪は短い方が汚れが溜まりにくいので、爪をしっかり切ってから味噌を仕込むこともおすすめしています。

爪を短く切ることができない場合や手に傷がある場合、また、皮膚が弱くて塩分でかぶれてしまう場合には、手袋をして行うのもいいでしょう。

これさえ出来れば、カビの繁殖を根本から抑えることに繋がり、美味しい味噌を作ることが出来るのです。

ちなみに、私たちの「手作り麦みそ講習会」では、味噌を混ぜる時、あえて「手袋をしてください」とは、お伝えしていません。

それはなぜなのか?蒸した大豆と麦を混ぜ合わせる際に伝わる「肌の温もり」と「手触り感」。これらは衛生面とは別に、「自分の手で感じながら、手作りする体験」は、何物にも代えがたいと考えているからなのです。

「手洗い」と「容器の衛生面」をしっかりするという前提で、皆さん素手で一生懸命作っているようです。

カビの生えにくい味噌作りタル

まとめ

いかがでしたでしょうか。
今回は「カビの発生条件」と「カビを防ぐ観点からの容器選び」についてお話しました。

カビが発生するには、空気、水、温度、栄養の4つの条件が必要です。そして、これらの必要条件を断つことでカビの発生を抑えることができます。

また、自分の手をしっかりと洗い、調理器具や保存容器もしっかり除菌することで、味噌に持ち込む不必要な菌を大幅に減らすことができます。

容器選びについては、衛生面と扱いやすさから「プラスチック容器」がおすすめです。

そもそもカビはご自宅のいたるところに潜んでいます。カビを「0」にすることは根本的に無理なので、最大限減らす努力をして、ご家庭での味噌作りを成功させましょう。

公式インスタでも「味噌作りについての質問」にお答えしています

(有)かねよみそしょうゆが主催する「麦味噌手作り研究会」の公式インスタでも、味噌作りについてよく頂く質問にお答えしています。参考になる投稿があったら、ぜひ保存しておいしい味噌作りにお役立てください!

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