先代、先々代からの言い伝えられたお話

シリーズ⑤

20年近く昔、あるお味噌屋さんの大先輩の工場長と一緒に台湾視察に行く機会がありました。そこで約一週間、地元の食品工場を見学や地元スーパーを見たりして過ごしました。

とある小さなお土産屋さんに入った時のことでした。

缶詰に入った得体の知れない怪しげな黒い茎のようなモノがショーケースの中に売っていました。

一緒に行った工場長が、ショーケース前に立つ人懐っこそうな女性店員に「この食べ物は何? ちょっと見せて!」と言って質問をしました。

女の子はニッコリしながらショーケースから出して、試食ということでその“茎のようなもの”を私たちに食べさせてくれました。恐る恐る口に運んでみると意外や意外。予想以上においしいではないですか!隣にいた工場長も「こりゃうまい」と言って女の子にビッグスマイル。

日本から来た、やたら食べ物を物色している二人組を見て、今度は逆に女の子がこちらに興味を持ったようでムシャムシャ食べている私たちに対して「何の仕事をしているんですか?」と聞いてきました。

てっきりと「味噌造りと醤油造りの仕事」と応えるものだと思っていた時の、隣にいた大先輩の工場長の返事。

「私たちの仕事はね、たくさん美味しいものを食べることなんだ」。「美味しいものをいっぱい食べて、もっといっぱい美味しいものをお客さんに食べてもらうことが仕事なんだ」。

ムシャムシャ食べながらもニコニコ応えている工場長に、女の子はあっけにとられながらも「とってもいい仕事ですね!」と言ってくれました。

おいしいものを食べることが仕事。そして、さらにそれ以上に美味しいものをお客さんに還元することが仕事。

20年以上前の台湾視察、隣に立っているその同業の大先輩の工場長の受け答えは、「あ〜この仕事について良かったな〜」とあらためて思わせてくれた瞬間でもありました。