先代、先々代からの言い伝えられたお話

シリーズ④

「えっ、そんなの簡単だよ。色が薄い醤油でしょ?」

それは今から約40年前、2代目当主の則秋が娘に聞いた時の答えでした。この道何十年も醤油造りに励んでいた彼が「どんな淡口醤油を作ろうか?」迷っていた時、彼の頭の中には「もっと窒素量を上げないと!」という思いでいっぱいでした。

でもはたして本当にそれだけでいいのか?

淡口醤油とは? おいしい醤油とは?・・・

迷いに迷って袋小路になった時、目の前の娘に聞いたのでした。「ねえ、淡口醤油ってどんな意味か知っている?」

冒頭のこの台詞はこの時、自分の娘が即答したものでした。

「びっくりしたー。今までずーっと醤油を作ってきたから“窒素”しか頭になかった。お客さんにとって淡口醤油というのは色が薄い、それだけでいいんだよな〜」。
「窒素とか言うのは専門家の言うことでお客さんには関係ないんだよな〜」。

晩年、2代目は後から振り返り、この時の娘の言葉は衝撃的で昨日のようによく語っていました。

2代目は娘からこの答えを聞いて腹を決めました。

色は薄く。でも味もおいしくないといけない。だから(当時)どこの醤油屋もやっていない動物性の出汁(カツオといりこ)を淡口醤油に加えよう。窒素量は考えないで、おいしい醤油だけを考えて作ろう。

目指すは最初から出汁が強調される調味料ではなく、家庭で煮物を作る時に色々な具材から出る“うま味”と合わさった時に、おいしさがぱっと花開くように出てくる自然な味。

そうして出来た淡口醤油。

そんな淡口醤油が40年たった今でも「母ゆずり淡口」として親子3世代に渡り使い続けられ、家庭の味として受け継がれているのでした。