先代、先々代からの 言い伝えられたお話
シリーズ①
「鹿児島の醤油は甘いですね〜」
「いいえ、それは一般の醤油が辛いだけなんです」
朝、私どもの工場を歩くと色々ないい香りがしてきます。
味噌造りのために、ほっこり蒸し上がったおいしそうな大豆の香り。
24時間かけて育ったお味噌の麹(こうじ)が放つ、温かくてふわ〜っとした優しい甘い麦の香り。
そして、なんといっても醤油の火入れ(殺菌工程)をしている時に嗅ぐことのできる香り。
それはおにぎりに醤油を付けてコンロで焼いた時に嗅ぐことのできる、あのなんとも言えないおいしそうな香ばしい香りとそっくり。
さらに私どもでは醤油の種類によって“黒糖”を入れたりしているので、その香ばしい香りがさらに甘い香りに変身して、工場中にあまーく優しいお菓子のような香りを放つのです。
昔、2代目則秋はよく言っていました。
「このお菓子のような醤油の焦げた甘〜い香り。
これがいいんだ。私達の醤油はこうでなくちゃダメなんだ。この香りは、大人でも子供でもみんな大好きなんだ!」
今でこそ情報も広く行き渡り“九州”、特に“鹿児島”の醤油は「甘口」ということは誰でも知られるようなりました。
しかし20年前。則秋が会議で東京へ行った時、同業の醤油屋さんから面白がるように言われました。
「鹿児島の醤油は甘いですよね〜」。
醤油は辛いモノ。これが常識だった時代。
それに対して2代目は、はっきり言い返しました。
「何を言ってるんですか。私達が甘いじゃないんです。あなた方の醤油が辛いだけでしょ!」と。
昔から味噌や醤油の“基礎調味料”とは、その地元の気候や風土、歴史に育まれて味が育つもの。
“甘い醤油”はここ鹿児島に合った、誇り高い地元が育ててくれた醤油である。
2代目則秋は、自信満々でこのことを伝えたかったのでした。