先代、先々代からの言い伝えられたお話

シリーズ⑪

南国鹿児島で味噌醤油を造り始めてもう100年以上。
普段から色々な「食」にまつわる話を見聞きします。
今回はそんな中から一部をご紹介します。

今回のお話は「季節の変わり目」のお話です

日本全国の会員さんからは毎日のようにお便りをいただきますが、毎年夏の暑い季節になると、必ずこのようなご意見を頂きます。

「醤油が か ら い !」と。

原料や製造方法は何も変えず、また製品検査を必ず行い、安定した商品であることを確認のうえ出荷しています。それでも必ずこのようなご意見をいただくのです。成分、塩分、色の変化等すべてチェックしても何の問題はありません。

2代目当主はこんな時よく言っていました。

「暑い夏はこのような意見をよくいただく」と。

夏になると人間の体は無自覚ですが疲れています。そんな時、人は”塩味”にとても敏感になるのです。

病気の時など体調が悪い時に、おかゆ等の“薄味”の方を好むのも同じ理屈。夏の暑い時も“こってり”したものより、サッパリ味の薄いものの方が好まれるのも同様です。

よく言いますよね! 夏は汗をかくから塩分を補給しないといけない。だから料理の時、塩を普段より多めに使わないといけない」と。

でもこれは全く逆。確かに体には必要なのかもしれませんが、体が疲れているとき舌の感覚は”塩からさ”というのを、とっても受けつけにくくなるものなのです。

そうして9月に入り夏が終わり、しのぎやすい季節になり体調が戻ってくると「醤油が辛い!」というご意見もだんだん聞かれなくなります。

体に必要なものと、体が”ほしい!”と言っているものは、少し違うのですね。

今から約50年前。

2代目則秋がまだ若かりし頃の話しです。

味噌造りに燃えていた則秋はたくさんの試行錯誤を繰り返しながら、味噌の味を評価する“ある鑑評会”で、ついに「優秀賞」を取りました。

「長年の苦労がついに実った!」と大喜び。

さっそくお味噌のラベルのところに「鑑評会 優秀賞受賞」と表記して、大売り出しを行ったのでした。

“鑑評会優秀賞”のお味噌を前に、自信満々の2代目則秋。

ところが・・・

その自信満々のお味噌は全くの不人気。

「全然おいしくない!」「以前のお味噌の方がよかった」などなど、主婦の方々を中心に散々な評価。

「当時はかなりショックだった!」

目の前の2代目則秋は50年前を振り返り、今でも鮮明にそのことを覚えていると静かに私に言いました。

続けて2代目

「考えてみたら当たり前のことだった。鑑評会で審査する人は味噌の専門家。一般には男たち。一家の台所を預かって毎日食事を作る主婦、ではない」。「さらに、審査対象は“お味噌”であって、私たちが家庭で食べる“お味噌汁”ではない」。と解説したのでした。

「専門家から褒められても何にもならん!」

以降、2代目則秋は二度と鑑評会に出品することなく、目の前の味噌造りに励むのでした。

生前の2代目の言葉です。

「自分は味噌醤油の製造技術を習いに専門的な学校に通うことはなかった」。

「私の技術は当時寝たきりだったおじいちゃん(先代栄蔵)と、批評や評価をしてくれたお客さんから直接学んだものだ」と誇りをもって語っていました。

令和の時代になった工場内も、則秋が培った技術を継承発展させながら、大豆を蒸したり麹を造っている味噌造りの職人が、忙しそうに今日も仕事に励んでいるのでした。