110年続く味噌屋が教える、カビが発生しにくい味噌作りとは?
こんにちは。
私たちは、南国鹿児島で110年続く味噌醤油屋 (有)かねよみそしょうゆ です。
桜島を真正面に望む海岸端で、お味噌とお醤油を作り続けて110年。
日本のお味噌の9割以上は米味噌のところ、「麹歩合」高めで、約一ヶ月の熟成で造り上げる “多麹・短期熟成” の「麦味噌」を専門に造っている醸造元です。
そもそも全国には、味噌醤油屋さんが約1200社あります。味噌醤油の作り方は、その土地土地の気候風土と歴史性もあいまって、各地域ごとで随分違います。
ですから、作り方について「どれが正解」ということはありません。どの地域の味噌醤油もそれぞれ味わい深く、永きにわたって親しまれてきた伝統食品です。
ただし各社造り方は違っても、麹(こうじ)という“生き物”の力を借りながら発酵食品を造っていく過程の「味噌作りにおける失敗」という点に置いては、共通点が多いのも事実です。
これらの“共通点”を踏まえ、私どもが主催している「手作り麦みそ講習会」の受講生から受けた質問をおりまぜながら、職人の体験と知恵を交えて楽しく知っていただき、各家庭での味噌作りをより“楽しく” そしてより“おいしい”ものにしていただければ幸いです。
それでは始めましょう。
麦みそ手作り講習会-基礎知識集
【110年続く味噌屋が教える、カビが発生しにくい味噌作りとは?】
この記事では味噌作りの際に発生する「カビ」と「産膜酵母」を、総称して「カビ」として書いています。
「カビ」と「産膜酵母」については、
【基礎知識集-味噌作りでカビが発生した時の「対処方法」と「事前の防止策」について】の第1章をご参照ください。
これまでの当社での実例をもとに「カビが発生しにくい味噌作り」についてご紹介いたします。ご自宅での味噌作りの際に、この記事がお役に立てれば幸いです。
この記事の目次
第1章:まず、カビが発生する条件を知る
丹精込めて手作りした味噌。
仕込みを終えてから出来上がるまでの熟成期間は、本当に待ちどおしく楽しみなものです。
しかし、一方でこの味噌が出来上がるまでの熟成期間は、トラブルもつきものです。その最たるものとして挙げられるのが「カビの問題」。当社の「手作り麦みそ講習会」の受講生からもよく質問を頂くのが、この「カビ」についてです。
味噌自体は、カビが生えても周囲を取り除くことで食べることが出来ます。ただし、取り除いた分だけ、出来上がる味噌の量が減ってしまいます。また、一度カビが生えてしまうと再発する確率が非常に高くなります。
ですから、味噌作りにおいてのカビの問題は、「そもそもカビが発生しないようにすること」がとても重要となります。
1-1:カビ発生までの「必要条件」とは?
まず、カビによる問題を最小限に抑えるためには、「カビが発生する条件」を知っておくことが大切です。
何もないところからカビは発生しません。カビが生えるには一定の条件があり、カビにとって最適な環境が整うとカビが発生します。
そもそもカビは「生き物」です。
ですから、人が呼吸をするようにカビも「空気」を必要とします。
簡単に言うと、カビは植物のようなものであり、茎と根もあります。ということは、カビが生きていく上で必要な「必要条件」を知ることで、カビへの対処法が見えてきます。
カビが生きていくために必要な条件は以下の4つです。
① 栄養
② 空気
③ 温度
④ 水
言われてみれば当たり前のことですが、この4つの条件がカビが生きていくために必要不可欠なものです。
では、これらの条件を1つずつ「カビの発生を防ぐための対処法」も交えて、さらに詳しく見ていきましょう!
1-1-1:カビが発生するために必要な条件 その①【栄養】
味噌は、煮たり蒸したりした穀物を原料に使用しますので、本来は「カビ」が発生するための栄養分が豊富にあります。
しかし、塩を混ぜることにより腐敗やカビの発生を抑えながら発酵熟成させることができるのです。
ただし「結露」や「たまり水」などの水分によって「塩分が薄まった場合」は、今度はカビにとって絶好の繁殖環境となってしまいます。
味噌作りを始めるにあたって知っておくべきこと。その1つ目は、そもそも味噌の原料は「カビ」にとって必要な栄養源であること。
そして2つ目は、塩を使うことで「腐敗」や「カビ」の発生を抑えていること。この2つを知っておくことがとても重要です。
1-1-2:カビが発生するために必要な条件 その②【空気】
カビも他の生き物と同様で「空気」を必要とします。手作り味噌の講習会で、最後にラップを味噌の上に敷くときに「隙間なく空気が入らないようにラップを敷いてください」とお伝えしています。
これは、余計な雑菌が入り込まないようにするためと、カビの繁殖に必要な酸素(空気)を遮断するためでもあります。
この工程で空気が入ってしまうと、カビの生えやすい条件をひとつ作ってしまうことになるのです。
1-1-3:カビが発生するために必要な条件 その③【温度】
「空気も抜きました!」「気をつけていました!」しかし、それでもカビが発生してしまったというケースは、意外と多いものです。
実は、カビが発生する条件で一番コントロールが難しいポイント。それが「温度」です。
一般的に温度が20℃~30℃くらい。そして、湿度が80%になるとカビが生えやすい環境になると言われています。
そして、一年の中でも、この条件に当てはまる時期が、皆さんよくご存じの「梅雨」の時期です。
逆に、冬の寒い時期はカビが発生しにくいことからも、カビが発生するために「温度」が重要な要素であることが理解できます。
ご家庭で味噌を仕込む際は、くれぐれも温度が高い場所や直射日光が当たる場所は避けましょう。
1-1-4:カビが発生するために必要な条件 その④【水】
あとひとつ、気をつけるべきポイントがあります。それが「水」です。カビも生き物です。ですから、他の生き物と一緒で「水」はカビの生存にとって必要不可欠です。
ここでは、先に「栄養」の項で述べたことと重なりますが、味噌の熟成が進むにつれて出てくる「たまり水」のことについて、あらためてお話ししたいと思います。
重しの周りにたまってくる「色のついた液体」といえば、味噌を作ったことのある人にはイメージがつくかもしれません。
この液体は「麹」が味噌の原料を分解して糖化することにより生成される「水分」と「糖分」がにじみ出てきたものです。
うまみが凝縮された味噌と醤油の間のような液体ですので、もし、味噌の表面に溜まってきた場合は、捨てずに味噌に混ぜ込んでください。
ただし、表面を覆うように大量に出てくる場合は、塩分が薄まりカビの発生の要因となってしまいますから、スプーンなどですくって捨ててください。
1-2:【体験談】創業より600年以上続く「種麹(たねこうじ)屋さん」の話
当社で長く取引をさせていただいている「種麹(たねこうじ)屋さん」があります。
種麹屋さんとは、お味噌や焼酎を造る時の種菌(たねきん)を売っているお店のことです。こちらの若い営業担当の方のお話しをしたいと思います。
仕事熱心な彼は、商売上「種麹」を扱っているので「自分でも味噌を作ってみよう」と思い立ち、自宅で味噌作りを始めたのでした。
もちろん麹菌を商品として扱っている彼です。雑菌の知識や清潔さの大切さは十分熟知していたのですから、細心の注意を払って作り始めました。
ところが・・・・
1-2-1:大変!手作り味噌にカビが生えた
彼曰く「はじめは味噌の表面に白っぽいモノが出てきました」。「そしてその後に黒っぽい黒カビがすごい勢いで出てきたんです!」。
続けて彼、「特に黒っぽいカビは繁殖力が強かった!」と言っていました。
みなさんもうおわかりですね。
おそらくこの白っぽいものとは“産膜酵母”だったのでしょう。
1-2-2:家庭ではカビが発生しやすい
その後も、彼は自宅で何度も味噌を作ってみたそうです。でも、やはりカビが発生しました。
工場では見かけることのない黒カビ。でも、自宅で味噌を作ると、決まって黒カビが発生するのです。そこで至った彼なりの結論。
「家庭ではどんなに気をつけていてもカビは発生しやすい」
「中でも一番繁殖力の強いカビは黒カビである」ということ。
その理由としては、そもそも家庭では屋根裏や床下を含めてどんな菌がいるかわかりません。
また、このような場所は換気も不十分になりがちです。もちろん、皆さんの家が汚いと言いているわけではありません。
そもそも、家庭での味噌作りは、蔵や工場で作る味噌作りとは、大きく違う点があるのです。
1-2-3:味噌を作る上で気をつけること
これまでの「カビ」や「産膜酵母」の話を踏まえた上で、味噌を作る上で気を付けることは、一体何なのでしょうか?
簡単に一言で言ってしまえば「きれいにしてから作りましょう」ということになります。
当たり前すぎて、拍子抜けしましたか?
ただし、覚えておいてほしいことがあるのです。それは、家庭で味噌を作る時の「限界」です。家庭で作る際、無菌状態で作ることは不可能です。
空気中にはいろいろな菌が存在し、時間をかけて味噌作りにいい影響を与えたり、悪い影響を及ぼしたりします。
だからこそ、悪い菌が時間をかけて悪い影響を出してくるのを、遅らせる必要があるのです。そのためにも「作り始め」、「仕込み始め」の状態をきれいに保つようにしてください。
【気をつけること】
・味噌作りの前に手を洗う
・容器をしっかり洗い、水分を拭く
・アルコール除菌をする
上記のポイントをおさらいしながら、味噌作りを始めてください。
1-3:それでも、味噌醤油作りに必要不可欠な「カビ」
さて、これまでのお話の流れからすると「カビは汚いもの」というイメージを与えてしまったかもしれません。
そこでこの章の最後に、二代目から聞いた「カビの一種である麹菌の力を借りて味噌作りをしてきた」という話をして、最後を締めくくりたいと思います。
1-3-1:二代目から聞いた話
味噌醤油作りに必要不可欠なカビ。味噌醤油は、カビの一種である“麹菌”の力を借りて作るものです。我々の会社の二代目、横山則秋から以前聞いたエピソードをご紹介します。
それは1972年、住み慣れた旧工場から新工場に移るときのこと。旧工場から車で30分のところにできた真新しい工場。床も壁もピカピカです。
そんな新工場で一番初めにやったこと。
2代目則秋社長の号令のもとで、旧工場から持ってきていた「出来上がったお味噌」と「出来上がった醤油」を思い切って床にばらまくようにと指示をしたことでした。
「バチャー、バチャー。」
真新しい工場が醤油の黒い色にみるみる染まっていきます。
きれいに磨き上げた工場が、一瞬汚くなってしまうのは心苦しくなってしまいそうですが、2代目は違いました。
なぜなら、
真新しい工場に今までの味噌と醤油をばらまいて、100年受け継がれている当社独自の味噌菌と醤油菌を、工場の中に充満させたかったから。
もちろん、しばらくしてから、まいた味噌と醤油は水で洗い流してきれいにしています。
ほかにも似たような話を聞いたことがあります。
ある醸造メーカーの工場長がアメリカに新しく工場を造ったとき、一番初めにある事をしたそうです。それが、日本の醸造蔵で働いていた従業員の上着を洗濯せずに運んで、しばらく新工場の中に置いていたとのこと。
これも、醸造の工程で必要な「菌」を、あらかじめ馴染ませるという意味で行っていたのかもしれません。真偽のほどはわかりませんが、うなずける話ですね。
第2章:カビが発生しにくい味噌作りとは?
ここまでカビの発生しやすい条件について解説をしてきましたが、一般家庭において工場のようなカビが発生しにくい環境を用意するというのは非常に難しいかと思います。ですので、ここからは一般家庭でも実施できる「カビが発生しにくい味噌作り」について解説をしていきます。
2-1:カビを防ぐには?
カビを事前に防ぐためには、まずカビの事を知る必要があります。カビがどのように発生するのか?というところから考えてみると、とるべき防止策が具体的に見えてきます。
2-1-1:そもそもカビは日常的に身の回りにいる
繰り返しお伝えしていることですが、あなたが住んでいる家や人が出入りする場所など、至る所にカビは潜んでいます。
それは、例えどんなに家をキレイに掃除をしていたとしても、あなたが過ごす家の屋根裏や床下なども含めて、カビ菌は必ず存在します。
もちろん、あなたがキレイに掃除をしている家のことを汚いと言っているわけではありません。そうではなく、本来、味噌は色々な菌がいる中で、味噌作りに必要な菌だけを活かして作るものです。
ですから、そもそも味噌菌が住みついていない家庭では、カビが発生しやすいということなのです。
2-1-2:だから、味噌作りは「カビ」がいる前提でやる
自宅で味噌を手作りする際に使用する容器や器具にも、目に見えない菌がたくさん付着しています。それだけでなく、私たちの手にも良い菌も悪い菌も含めて「常在菌」という菌が潜んでいます。
まずは、私たちも身の回りで至る所に菌がいることを前提にして、味噌作りを行うことが大切なのです。
2-1-3:カビを「0」にするのは無理。極力減らすという考え方でやる
そもそも、日常に潜んでいる菌を全て排除して「0」にすることは、とても難しいです。菌が存在しない無菌の工場や研究室ならまだしも、一般の家庭で菌をなくすことは不可能に近いでしょう。
このような菌を排除できない環境では、そもそも味噌を作る際に大切なのは菌を「0」にするのではなく、「極力減らす」という考え方で取り組まなければなりません。この考えをもとに、実践できることを行えば良いのです。
では、菌を極力減らすために必要なことはなんでしょうか?
それは、味噌作りで使用する容器や自分の手を「きちんと洗ってから仕込む」ということ。とても簡単で、拍子抜けするかもしれません。
しかし、これこそがカビを防止するための基本です。さらに言うと、使用する容器や器具もしっかりとアルコールで除菌することで、より、カビの発生リスクを抑えられるのです。
2-2:カビを防ぐ観点からの容器選び
2-2-1:カビが発生しやすい容器とは
味噌屋では「木樽で味噌を作っている」というイメージをもたれている方も多いのではないでしょうか。
実際に、初めて味噌作りをされる方で「味噌を作るなら木樽で」という方は少なくありません。
しかし、実は木樽はカビが発生しやすいという特徴があります。また、天然の素材であるためにメンテナンスも大変なため、現在では木樽で味噌作りをしている味噌屋さんは、随分と少なくなりました。
そもそも、木樽の素材である「木材」は、水をたっぷりと吸収します。そのため、いつも湿っているのが特徴です。
つまり、常にカビが発生しやすい「水分」をいつも溜め込んでいるので、たまにしかお味噌を作らないという一般家庭での場合は、皆さんが思っている以上にリスクが大きいのです。
ですから、当社としては、一般家庭での味噌作りで「木樽」を使用することは、あまりおすすめしていません。(木樽での味噌作りを否定しているわけではありません。)
ただし、古くから味噌屋で木樽が使われてきたのも事実です。これについては、味噌屋では日頃から蔵の中に「味噌菌」が充満していること。
そして、職人による「定期的なメンテナンスが行き届いている」という前提があります。そもそも、味噌屋と一般家庭では「環境面」が大きく違うということだけ、頭に入れておいてほしいのです。
2-2-2:では、どの素材の容器が良いのか?
では味噌を手作りする際に使用する容器は、どういったものがいいのでしょうか。ぬか漬けでよく使用するホーロー容器がいいのか、頑丈なステンレスがいいのか、たくさんある容器の中からひとつを選ぶのは、難しいですよね。
しかし、その前に、長年味噌を作り続ける味噌屋は、「味噌造りにおいて何を最も重視しているのか」というポイントを押さえると、容器選びのヒントが見えてきます。
2-2-3:味噌作りにおいて、味噌屋が最も重視するポイント
それぞれの地域によって変わりますが、味噌造りの職人は、味噌を長期熟成した方がいいのか、短期熟成の方がいいのか、夏を越すまで置いておくのか、冬を越すまで置いておくのか、その上で仕込み量はどれくらいにするのか…などなど、地域性も考慮した上で、その時の「気温」や「熟成させる時間」を重視しています。
つまり、味噌の専門家が気にしているのは容器の素材よりも、「外気の温度が、どれくらい仕込み味噌へ影響するのか」ということを、いつも気にかけているのです。
一般家庭で味噌を手作りできる量は、せいぜい1kgから5kg。このぐらいの量であれば、特に外気の影響を受けやすいので、実は容器の素材ありきで選ぶよりも、味噌の仕込みの際の「外気の温度」を念頭に置いて、容器を選ぶことの方が大切になります。
つまりこの観点から言えば、外気の温度が伝わりやすく「結露しいやすい」ステンレスやホーローは難易度が高く、初心者は避けた方が無難だといえます。
また、気温が高い時期では、木樽は衛生管理の点で注意が必要となります。
2-2-4:要は衛生的かどうかで選ぶ
まとめてみたいと思います。
容器選びでは「どの容器が味噌作りにいいか?」と考えがちです。
そうではありません。
「衛生的に味噌作りをするためには、どの容器が一番いいか?」そして、「容器による味噌仕込みへの気温の影響は、どれが一番少ないのか」と考えてもらいたいのです。
それぞれの容器にはそれぞれの良い点と注意点があります。
繰り返しますが、自宅で味噌作りをする際には、菌を極力減らした状態を目指すことが大切ですので、まずは何と言っても衛生面を意識してください。
本来、どの容器でも味噌づくりは出来ますが、手に入れやすさと衛生面が優れている観点でいえば、「プラスチックの容器」をおすすめしています。
味気(あじけ)ないと思われますか?しかし、プラスチックの容器は、乾燥が早く軽くて持ち運びにとても便利なのです。
また、衛生面に優れていて、何よりも安価です。ですから、よほど見た目を重視しなければ、プラスチック容器が一番扱いやすいと言えます。
もちろん使用する際は、水でしっかり洗いましょう。そして、アルコールシートなどで除菌をすれば、よりカビを防止することに繋がります。
2-3:あらためて味噌作りをする前が肝心!
2-3-1:容器の殺菌等は十分すること
手作りの味噌を仕込む前には、しっかりと容器を洗うことが肝心です。内側も外側もよく洗って、菌を極力減らします。
洗った後は水分をしっかり拭き取り、アルコールなどで除菌しましょう。食器用アルコールを吹き付けてキッチンペーパーで拭いても良いでしょう。
こうすることで、カビのリスクを遠ざけて味噌を作ることができます。
2-3-2:一番肝心なのは、手をしっかり洗うことです
カビや産膜酵母の菌は、空気中や人間の皮膚にも常に潜んでいます。その中には良い影響を及ぼすものがいれば、悪い影響を及ぼすものも存在します。
このような状況のもとで、味噌作りの際に良い菌だけを取り入れることは、そもそもが無理な話です。
ですから、自宅での味噌作りをする際に「手袋をして」とか「袋の上から」とか指示されることもあるかと思いますが、これは衛生面から考えると、とても良いやり方だと言えます。
もちろん、素手で作る場合もありますが、いずれにしても味噌作りの際には、まずはしっかり手を洗うことを徹底してほしいと思います。
手のひらや手の甲を洗うのはもちろんですが、特に爪の間に雑菌が溜まりやすいので、しっかりと洗う必要があります。爪ブラシを使用するのもおすすめですね。
そもそも爪は短い方が汚れが溜まりにくいので、爪をしっかり切ってから味噌を仕込むこともおすすめしています。
爪を短く切ることができない場合や手に傷がある場合、また、皮膚が弱くて塩分でかぶれてしまう場合には、手袋をして行うのもいいでしょう。
これさえ出来れば、カビの繁殖を根本から抑えることに繋がり、美味しい味噌を作ることが出来るのです。
ちなみに、私たちの「手作り麦みそ講習会」では、味噌を混ぜる時、あえて「手袋をしてください」とは、お伝えしていません。
それはなぜなのか?蒸した大豆と麦を混ぜ合わせる際に伝わる「肌の温もり」と「手触り感」。これらは衛生面とは別に、「自分の手で感じながら、手作りする体験」は、何物にも代えがたいと考えているからなのです。
「手洗い」と「容器の衛生面」をしっかりするという前提で、皆さん素手で一生懸命作っているようです。
第3章:それでもカビが発生してしまったら
一から味噌を作るのは楽しいものです。味噌作りを成功させるために、カビを発生させないように注意しましょう。カビを発生させないためには、何だかんだといっても最後は「衛生的」に作ることが大切です。しっかりと手を洗い、容器も消毒して仕込んだ味噌だから平気と安心しきっていませんか?
実は、しっかりと衛生管理を行っても数ヶ月後、味噌の表面にカビが発生してしまう場合もあります。色んな条件が重なってカビが生えてしまうこともあるでしょう。
もしカビが生えてしまったときの対応を知っておくと、急に慌てることは少なくなるかもしれません。
では、具体的にお伝えします。
3-1 カビが発生してしまったら
3-1-1 仕込んで数週間後、よく見ると「味噌色」でないものが出てきた
仕込んで数週間後、よく見ると「味噌色」でないものが見られるようになりました。一般的な味噌の色には3種類あり、「淡いクリーム色」「黄色味のある淡色」「赤味のある褐色」などにわけられます。
これらの色から外れている色を発見すると、これは「カビ」なのか「産膜酵母」なのか気になりますが、判断がつかないこともあるでしょう。とにかく異常であることは確かです。そんなときはどのような心構えでいれば良いのでしょうか。
そもそも家庭での味噌作りにはカビはつきものです。カビは日常的に身の回りにいます。お風呂の天井やタイルの間にみられる黒カビをイメージしていただくと、身近に感じるでしょう。
また、常温保存しておいたさつまいもにふわふわとした白いカビがつくこともあります。カビはとてもポピュラーであり、家庭での味噌作りにおいては、高い確率でカビが発生すると理解できます。
3-1-2 カビが発生しても慌てないこと
もし、カビが発生しても慌てないでください。カビが発生してしまったからといって味噌自体がダメになるわけではありません。まずは、カビの状態や味噌の様子をしっかり観察しましょう。あとは、状況に応じて適切に対処していけば大丈夫です。
3-2 そもそもカビは取り除くべきか?
カビが発生した場合、取り除いた方が良いのか悩むこともあるでしょう。取った方が良いカビの目安は以下のとおりです。
・匂いがつく
・見た目に悪い
・放っておくとカビが増殖する
・味噌のうまみ成分が失われていく
3-2-1 取った方がいい
上記のような状態のときは、取り除いた方が良いでしょう。嫌な匂いが味噌についていたり、見た目が味噌のような色ではなくなっていたりする際は、取り除いた方が無難です。
なぜなら、異変に気付いても放っておくとカビが増殖してしまうからです。カビが増殖すると、味噌のうまみ成分が失われてしまい、おいしい味噌に仕上がりづらくなるでしょう。
ただし、カビを取り除くとカビ付きの味噌の量が増えるのとは逆に、出来上がる味噌の量は減ってしまいます。うまみ成分もカビによって失われてしまうので、おいしい味噌を作るためには、カビへの対処が大切です。
3-2-2 カビが生えても食べられるのか?
カビは味噌の表面を覆うように発生します。そのため味噌は、カビが生えていても取り除けば食べられます。
ポイントは味噌の表面を1cmほど余分に周りから取り除くことです。味噌が出来上がって、冷蔵庫で保存すればカビの発生は抑えられます。
一番気をつけなければならない時期は、熟成期間です。この期間はカビが発生しやすいので、カビが生えないよう上手に冷蔵庫を活用しましょう。
3-3 カビの取り除き方
もし味噌にカビが発生してしまったときは、どのように取り除いたらよいでしょう。ポイントを押さえて、再発を防止するために、ここではカビの取り除き方やおすすめの器具をご紹介します。
3-3-1 カビの周囲から取り除く
カビの周囲から取り除く場合、まずはラップを外しましょう。1cmほど余裕をもって、周辺からカビを取り除いてください。すくう深さは5mm~1cm程度で大丈夫です。
3-3-2 常に清潔に
カビを取り除く作業中は、常に清潔を保ちましょう。カビを取り除くとき、あらためて雑菌が入らないようにすることが大事です。カビ防止の面でも木製の箸よりも金属の物の方が適しています。例えば、金属やプラスチックのスプーンを使用すると良いでしょう。
カビを取り除くときは、手もしっかり洗うことが大切です。基本は、仕込むときと一緒なので、菌の侵入を極力抑えるように気をつけてください。
3-4 カビを取り除いた後にすること
カビを取り除いてそのまま放置していれば、おいしい味噌は出来ません。カビを取り除いた後にも気をつけるべきポイントが4つあります。
・くぼみを平らに慣らす
・空気に触れさせない
・あらためて容器もきれいにする
・置き場所の再検討をする
では、ひとつずつみていきましょう!
3-4-1 くぼみを平らに慣らす
取り除いた後に出来たくぼみは平らに慣らしましょう。平らにしないと、くぼみに水分や空気が溜まってしまいます。空気も溜まってしまい、カビの発生要因となってしまいます。
カビを取り除いた後は、必ず味噌の表面を平らに慣らしましょう。
3-4-2 空気に触れさせない
味噌が出来上がるまでは、表面が空気に触れないよう遮断してください。空気があるところにカビが発生しやすいので、ラップと味噌の間に隙間を作らないように注意しましょう。
空気に触れないようにするには、カビを防止するためでもありますが、味噌の品質を保つ目的もあります。味噌は空気に触れることで酸化し、熟成したかのように褐変します。しかし、酸化は熟成ではありません。旨みは増えず味噌本来のおいしさが味わえなくなってしまう可能性があります。
3-4-3 あらためて容器もきれいにする
容器をきれいにすることは、味噌作りにおいて重要です。カビを取り除いた後でも清潔にしておかないと、またカビが生えてしまうかもしれません。容器の側面や蓋も除菌シートで拭いてください。
もちろん、アルコールでも問題ありません。見逃しがちですが、ラップの表面も水分を拭き取ってから除菌しましょう。
3-4-4 置き場所の再検討をする
湿気の多い場所はカビが生えやすくなってしまうため、避けて保管しましょう。気温が高くなる場所も避けてください。気温が高い場所での保管は、味噌の発酵が進んでしまい、味や色が変わってしまう可能性があります。
直射日光の当たらない場所に置き、味噌をカビから守りましょう。
3-5 もし木樽で仕込んでいたら
3-5-1 そのままにしておくと
木樽で仕込んでいた場合、そのままにしておくと雑菌が繁殖しやすくなります。とはいえ、木樽を毎年使うと木樽に菌が定着し、味わい深い味噌が作れるといわれています。木樽特有の木の香りが味噌に移るメリットもありますが、手入れや管理が大変で味噌が漏れる心配もあるかもしれません。
しかし、木樽自体が雑菌の繁殖リスクが高いため、カビを取り除いても再発する可能性が高いといえるでしょう。次にお伝えする改善策をぜひ試してみてください。
3-5-2 【改善策】思い切って味噌を詰め直そう
木樽で仕込んでいる場合の改善策として、可能であれば容器をプラスチック製の物に変えてみませんか。木樽で熟成させ続けるよりも、思い切って詰め直す方が衛生的です。
3-5-3 詰め直す際の注意点
詰め直す際には、以下の注意点に配慮しましょう。
・移す容器は、事前にしっかり洗って除菌する
・押さえて空気を抜きながら詰める
空気を抜く理由は、異常発酵を防ぐためです。天地返しの要領で行いましょう。天地返しとは、味噌を作る過程で行う作業のことです。大豆を空気に触れさせて、微生物の働きを活発にし、発酵促進と風味アップを図ります。
上下の味噌を入れ替えるようにかき混ぜることで簡単に天地返しができます。このように、味噌の空気をしっかり抜き、味噌を新しい容器に詰め終わったら、しっかりラップをしてください。カビの発生を防ぐために、木樽の側面や蓋もしっかりと除菌しましょう。
おいしい味噌を作るために容器を変えた後、除菌や詰め方に配慮することで、おいしい味噌のリベンジができるかもしれません。
まとめ
今回は、「カビが発生しにくい味噌作り」いついてお話いたしました。
家庭での味噌作りはどうしても無菌状態で仕込む事は難しいので、カビをゼロにする事はまず無理です。カビの繁殖をいかに最小限にするか、この点を重要視しましょう。
その上で、手を丁寧にしっかりと洗いアルコールで消毒をしてから仕込むようにして、仕込み時に使用する調理器具、容器も仕込みの前段階でしっかりと洗浄し、アルコールで消毒してから仕込みを始めるようにしてください。
また、カビの繁殖を少しでも抑える観点から考えると、カビの生えやすい木樽や結露しやすいステンレス・ホーローなどは、中級・上級者用と考えてください。
軽くて衛生面でも扱い易いプラスチックの容器を使うのが、初心者にはおすすめです。
味噌を仕込んだ後は、空気に触れている部分はカビが発生しやすくなりますので、しっかりとラップで覆い空気を遮断してください。
お味噌を作る前から衛生面をしっかりと整えることで、味噌への菌の持ち込みを最小限に抑えられます。その結果として、美味しいお味噌が出来あがる可能性もグンと上がりますので、ぜひ、ご家庭で実践してみてください。
本記事を参考にしながら、引き続き手作り味噌を楽しんでいただけたら幸いです。
公式インスタでも「味噌作りについての質問」にお答えしています
(有)かねよみそしょうゆが主催する「麦味噌手作り研究会」の公式インスタでも、味噌作りについてよく頂く質問にお答えしています。参考になる投稿があったら、ぜひ保存しておいしい味噌作りにお役立てください!
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